LOGIN「貴様かぁぁぁあああ! 吾輩のレシピを盗んだのはぁぁぁあああ!!!」 旅から帰ったらちょび髭のおっさんにいきなり因縁をつけられました。こんにちは、高町みさきです。異世界に来たら一年中セーラー服を着る罰ゲームを実行させられている最中の不幸な三十路女です。どーも、しばらくぶりです。って誰に言ってんだろ?「この方はたしか領主府付きの料理人でございましたね」 「吾輩の名はロー・サンジン。帝国東部でもきっての料理人よ! かつては皇都の料理大会でも3年連続準々優勝を果たし……」 セーラー服君があまりにうるさいので、なるべく弱そうな瘴気領域の主を倒して麓の町に帰ってきたところなのだ。出迎えに来てくれたサルタナさんをさえぎって、ちょび髭がうだうだと自慢話を続けている。こっちは旅で疲れているので、用事があるなら手短にお願いしたいのだけれど。「みさきさんが出場していたら、優勝間違いなしでしたね! なんたって、みさきさんは料理の聖女様なんですから!」 ちょび髭の自慢話にふんすと鼻息を吐いて立派な胸をそらすのはミリーちゃんだ。信頼が厚いのはうれしいけれども、さすがにプロの料理人と対決して勝てるような腕前ではありませんよ。妙な挑発はやめてくだされ。「なんだとぉぉぉおおお!? この帝国東部の至宝と呼ばれたロー・サンジンを侮るか!」 いや、1ミリも侮ってないっす。侮ってないのでそこを通してもらってもよいでしょうか? つか、さっきから自慢の内容がいちいち微妙なんですがそこは突っ込むべきポイントなのだろうか。「ぐぬぬ……それはともかく、本題だ。高町みさきとやら、貴様が吾輩のレシピを盗んだことは明白である。帝国法にのっとり、貴様を裁判にかけることとなった」 裁判!? なんでいきなりそんな話になるんすか。レシピを盗んだとかさっぱり身に覚えがない話なんですけど。「とぼけたところで無駄だ。吾輩の石パン煮込みのレシピを盗み、あまつさえそれを市井の定食屋などという下賤な店に売り渡したことはわかっているのだ!」 ええー!? なにそれ。ぜんぜんおぼえが……ううん? そういえば、だいぶ前にレシピのアイデアを食堂のおばちゃんに話したことはあるな。レシピは思いつきで盗んだものじゃないし、引き換えに報酬をもらったりもしてないけど。あ、食べに行くとちょっとおまけしてくれるようにはなったか。「ふふふ
両手で慎重に土の中を探る。 硬い感触。 太さは片手で掴んで余る程度。 地中をたどっていくと、わたしの身長くらいの長さがあるのがわかる。 ふふふ……これはわたしの優勝だな!「みさきさーん、ぼくのを見てください! こんなに大きいですよ! つやがあって、太くて、ぜひこれをみさきさんに食べてほしいです!」 うがぁっ!? 後ろからいきなり声をかけられて思わず力んでしまった。 せっかく優勝レベルのを掘り出す直前だったのに、先っぽが折れちまったじゃないか……。 腹立ち紛れに、折れた先っぽを声をかけたカガ君に投げつける。 カガ君は「みさきさんからのはじめての贈り物……一生大切にします!」と折れた芋の先っちょを抱いて感涙にむせび泣いている。 いや、それ芋だからね? 一生保存がきくものじゃないよ? なお、カガ君がドワーフ村に帰ってきたのはひと月ほど前のことだ。 細かい経緯は端折るが……私を追っかけて第二皇都を突っ切ろうとした挙げ句、緑の魔王を倒した英雄として祭り上げられ、おまけにメガネチャンダイオーを召喚して大魔王をやっつけた立役者として皇族と婚約させられかけたので逃げてきたらしい。 カガ君曰く、「ぼくの結婚相手はみさきさん以外に考えられません!」とのことだったが、その台詞の最中もその視線は我が平らかなる平原に注がれていたのでまったく信用ができない。 どうせ、皇族のみなさまが立派な山脈の持ち主だったからお気に召さなかっただけだろ、おらぁん!?「みさきさん、私もこんな立派なのが掘れました!」「南方で見たものとは大きさが段違いでございますね。これで味がよければ逆に南方で売っても商いになるやもしれません」 頬を泥で汚してうれしそうに芋を掲げているのはミリーちゃんだ。 サルタナさんは掘り出された芋を興味深げに眺めている。 そう、ここはドワーフ村の芋畑なのである。 あの蛸髭魔王との決戦から早数ヶ月、南方から持ち帰ったアヌームを植えた畑の初の収穫なのだ。「まさか環境でここまで生育に差が出るとは……アヌームはまだまだ研究しがいのある作物かもしれんの」「蔓が丈夫じゃのう。この繊維を使えば自律ゴーレムの軽量化が大幅に進むかもしれん」「ボクが高町さんのセーラー服以上のものを作ってみせますよ!」 刷毛で丁寧に芋を掘り出し、芋の観察をし
カマキリ女の変貌はそれだけではおさまらない。全身の筋肉が盛り上がり、皮膚が破れ、その下から金属のような光沢を持つ外骨格が現れる。両腕が長く伸び、身長も一回り大きくなる。 これはもう……カマキリ女なんてもんじゃない。二足歩行の巨大カマキリだ。「こレでもう、あんタごときに負ケたりしなイしー」 シャアシャアと何かをすり合わせるような異音を発しながら巨大カマキリがこちらに向かってくる。両手脚の関節の構造は変わっていないようだが、どこか昆虫めいた動きを連想するのは見た目のせいだろうか。「シャアッ!!」 異形が突進してくる。咄嗟に横へ飛んで回避する。通り過ぎる風切り音。手の甲に生暖かい感触。ちらりと目をやれば、血が流れ出している。かわしきれなかったのか……!「あイ変わラず勘がいイじゃん。でモ、次はよけレるかなー?」 カマキリ女がギチギチと首を回し、こちらに複眼を向けてくる。言葉とは裏腹にまるで感情が読み取れない黒い瞳孔と目が合う。つか、首180°回ってんじゃん。エクソシストを呼ばなきゃいけないやつじゃん。 次の瞬間、身を捻ったカマキリ女が再び突進してくる。先程よりも距離が近い。横へかわしたら間に合わない。戦鎚を構え、防御姿勢を取る。殺到する風切り音。連続する金属音。カマキリ女の両手の鎌が絶え間なく襲いかかる。あまりの圧力にじりじりと後退を強いられる。「セーフティ解除!」「了解、ご主人」 セーラー服が光の泡になり、白銀に輝く鎧へと変わる。とても温存できる状況じゃない。変身完了を待たずにミスリル戦鎚を引き抜き、両手での防御に切り替える。 これで防御はできる。だが反撃の糸口が見えない。暴風のように迫りくる連撃に防戦以外の選択肢が取れない!「全身鎧モードなら耐えられる!?」「数撃であれば」「なら変更!」 再びセーラー服が光の泡へと変わり、全身を包む分厚い鎧になる。動きが鈍い。1撃、2撃、甲高い金属音とともに身体に走る衝撃。戦鎚で捌けなかった攻撃だ。だが、体勢を崩すほどではない。黒戦鎚を放り捨て、ミスリル戦鎚を両手で全力で振り回す。手のひらに伝わる衝撃、衝撃、衝撃。すべて鎌で受けられているが、確実に押し込み返している。衝撃、衝撃、衝撃。鎌ごと叩き折る勢いで全力で戦鎚を振り続ける。 たまりかねたカマキリ女が後ろに飛び下がって距離を取る
ヒロトが2階から降ってきた。 ってちゃうわ。上空から降ってきた。あの熱血バカは何を考えたのか謎の飛行機でメガネチャンダイオーの頭上に急降下アタックを決めやがったのだ。合体とか叫んでたけど、そんなことできるわけないやろ……。 ああ、これは終わった。メガネチャンダイオーが壊れてしまっては逃げることすらむずかしいかもしれない。思わず膝をつきそうになり……『『『真・ジャスティス・メガネチャンダイオー・フェニックス・降臨!!』』』 メガネちゃん、メカクレちゃん、熱血バカの声が見事に重なった。 第三者視点を映すモニターに目をやると、そこには炎の兜をかぶり、背中から光の翼を生やしたメガネチャンダイオーが立っていた。これどうなってるんですかね。とりあえず規格とかどうなってるのか聞いていいものなんですかね。 翼から強烈な閃光が放たれ、戦場が真っ白に染まる。それが収まると、大魔王の身体を包んでいた黒い靄が消え去り、大地を覆っていた黒い毛のようなものも消え去っていた。いやもうホントどうなってんですかね、これ。『おれたちの熱い正義の魂が!』『輝く生命の輝きが!』『瑠璃色のクリムゾンソウルが!』『『『邪悪な魔王を打ち倒す!!!』』』 メガネチャンたちのテンションが振り切れている。さっきまで苦戦してたとはまったく思えねえ……。これはあれか、メガネチャンダイオーの動力は気合とか精神力とかそういうあれなのだろうか? うん、さっぱりわからんぞ。『『『受けてみろ!!! 黄金色の真・爆炎豪拳連打・with・メガネチャンダイオー!!!』』』 その叫びと共に、メガネチャンダイオーの上体が左右に振られ、無限の軌道を描き出す。左右の拳が繰り出され、大魔王の顔に、顔に、顔に、腹に、腹に、腹に、途切れることない連打が突き刺さる! 大魔王が徐々に後ずさり、そして空中へと浮かび上がっていく。『『『これでトドメだっ!!! 爆炎龍拳!!!』』』 大魔王の顎を強烈なアッパーが打ち抜いた! 大魔王の身体は暴風を起こしながらくるくると回って天高く吹き飛ばされていく。そして太陽のひとつと重なった瞬間、地を揺らす轟音と共に大爆発をして消滅した。 えー、これどうなってるんですかね。解説のメルカト様、お
高町みさき一行がメガネちゃんを救出した後のこと、街の北門の前で一人戦う男がいた。体のラインにぴったり沿ったスーツに身を包み、フルフェイスヘルメットのような兜をかぶったその男とは―― ――そう、天王ヒロトことジャスティスレッド、その人である!「ジャークダーの戦闘員よりずっと弱いが……こう数が多くちゃキリがねえぜ!」 腕の一振りごとにゴブリンを殴り倒しながら、ヒロトは思わずぼやいた。もう何時間も戦いづめなのだ。その上、周囲には味方の一人もいない。味方の兵は基本的に城壁の上で戦っており、地上に降りて敵を迎え撃つものなどいなかったのだ。「オラァッ! 正義の音速拳っ!」 普通のゴブリンの2倍は大きいオーガゴブリンに目にも留まらぬ連打を叩き込む。オーガゴブリンは何体ものゴブリンを巻き込んで吹っ飛んでいった。 もう何百体倒したかもわからないほどだが、敵が途切れる様子はまったく見られない。ヒロトが地上で戦っているのはスタンドプレーではあったが、それがなければ北門はとっくに陥落していただろう。 決して意識して狙ったわけではない。前世の経験で集団戦には慣れており、そういうことには天性の勘が働くのだった。「あっ、また攻城兵器か! くらえっ、神槍蹴撃!」 わずか三歩で最高速に達し、弾丸のような速度で飛び蹴りを繰り出す。狙ったのは小屋付きの破城鎚だ。防備用の木板をたやすく貫き、粉砕する。「それにしても……ずっと変身してても大丈夫なもんなんだな」 着地先にいたゴブリンたちを素早いジャブとストレートの連打で次々に仕留めていく。武術大会で己の拙さを知ったヒロトは基本的な格闘技術を身に着けはじめていたのだ。無駄のない洗練された動きは、以前の殺陣のような華やかさはないが研ぎ澄まされた機能美を感じさせる。 変身に関してもそうだ。前世ではジャークダーが現れてから変身していたため、常時変身して戦うという発想がまったくなかったのだ。酒場で高町みさきに指摘されて以来、彼は暇さえあれば変身し、その姿のまま訓練や日常生活を送っていた。 そのため、街の人間たちには「赤い人」の愛称で親しまれつつあった。「そういえば、なんで前世じゃめったに変身しなかったんだっけ?」 たしか、セイギネス様から言われたのは「正義のヒーローは正体を知られては
メガネチャンダイオーのコックピットが激しく揺れる。メガネチャンダイオーの衝撃吸収機構は強力で、これまで飛ぼうと走ろうとまるで振動を感じなかったので驚いてしまった。「右腕部損傷率10%!」「大型モンスター出現! パターン赤です!」「胸部第二機関室にて火災発生! 消火急いでください!」 近未来SFチックな軍服を着た黒髪の美女たちが口々に何かを叫んでいる。おいおい、これは大丈夫なのか……?「あ、パターン赤だとか火災だとかはフレーバーなので心配しないでください」「……雰囲気作り、大事」「そ、そうなんだ」 思わず焦ってしまったが、メガネちゃんたちにはまだ余裕がありそうだ。ひとまず安心……していいのかな。右腕の破損はガチってことだよね?「交易都市の近くで遭った瘴気領域の主より大きいですね……」「魔王が変じたように見えましたが、エルフ村のときと同じ薬でしょうか?」 ミリーちゃんとサルタナさんも若干不安げな声を出す。メガネチャンダイオーの強さは圧倒的だが、決して無敵の存在ではない。目の前に現れた巨大な怪物に対し、恐れを感じるのは当たり前だ。「また揺れると思うので、みさきさんたちも椅子に座ってください」「……念のため」 メガネちゃんに促されるままに近場の椅子に座ると、黒髪の美女のひとりが冷たい飲み物を持ってきてくれた。この美女たちはメガネチャンダイオーモードのときのみに現れるオペレーション要員……のようなものなのだそうだ。 雰囲気作りのためだけに存在しているそうで、いてもいなくてもメガネチャンダイオーの操縦に支障はないらしい。見た目こそ人間そっくりだが、本当はドラム缶ロボと同じロボットだ。AIも同じレベルで、あらかじめ決められた役割以外は何もできないとのこと。 椅子に座って落ち着いたところで、心の中でこれまでの流れを少し振り返る。 メガネちゃんを救出したわたしたちは、ショッピングセンターの救護室にメガネちゃんを寝かせて意識が回復するのを待った。 本当は医者に診せたかったところだけれど、戦争中の街に舞い戻るようなことはできない。やきもきしながら待つこと数時間、メガネちゃんの意識が回復したときには安心のあまり全身の力が抜けてしまいそうだった。 目覚めたメガネちゃんの体調に問題がないことを確認し、事情を説明する。そして、メガネチャンダイオーの降臨と







